【アーティスト・itabamoeインタビュー】イラストレーターとアーティストの決定的な違いとは
目次
2023.3.24.UPDATE
皆さんこんにちは。現代アート通販サイトMONOLiTH運営責任者のGOSUKEです。
今回のアーティストインタビューのお相手は、itabamoe。
様々な企業の広告や雑誌のイラストレーターとして活躍してきたitabamoeさんは、どのような想いでアーティスト活動を始めたのか。イラストとアートにはどのような違いがあるのか。
根掘り葉掘り質問し、赤裸々に語って頂きました。
アーティストプロフィール
itabamoe(イタバモエ)
服飾大学を卒業後、服飾デザイナーとしてキャリアをスタート。
その後、雑誌・広告の世界に強く惹かれ、2015年にイラストレーターに転身。挿絵や広告、アパレル、コスメ、食品、雑貨、フェムテック用品等、様々なコラボ商品を手がける。
そして2021年、キャリアの中で感じた、自身の描く女性自体の美しさを突き詰めるため、アーティスト活動を開始。自身が思う「いい女」をテーマに作品制作を行う。
アーティストインタビュー
itabamoeの想う「いい女」とは
ーー「いい女」をテーマに作品制作をされているかと思いますが、どのようなものか詳しく教えて下さい。
元々服飾の学校に通っていて、仕事は服のデザインをしていたんですけど、その頃からデザイン画等で女の人の体を描くことが多かったです。
そしてその後、イラストレーターを始めて、そこからは女性誌とか、女の人をモチーフに絵を描いていたんですけど、去年7年目を迎えました。
そこで何となく、もう少し自分の表現をしていきたいな、イラストとはまた違った形で表現したいなと思うようになりました。女の人を描くというのは変わらないんですが、違った形で表現したいなと。
で、クライアントワークをベースにするイラストレーターという軸ではなく、自分の描きたいものを描くアーティストとしての活動もしていきたいなと思って、今の活動を始めました。
ただここ一年くらい、何故自分がそれをやっていきたいのか頭の中で整理出来ていなかったんですけど、この間、小野田さん(※筆者)と、美術解説するぞーさん(※)とお話させて頂いて、その時にやっとお話しながらまとまった、という感じです(笑)
ありがとうございました!
ーーおお!こちらこそ本当にありがとうございました!
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※美術解説するぞーさんとは
InstagramとTwitterにて、美術作品や美術の基礎知識を解説している方。元小学校の美術教師というバックグラウンドで、美術に関する知識や美術的なものの見方が非常に豊富。美術解説するぞーさんの投稿は勉強になることばかりで、筆者も日々学ばせて頂いている。
美術解説するぞーさんのInstagramはこちらから
美術解説するぞーさんのTwitterはこちらから
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今まで企業さんとかとお仕事をさせて頂いていて、知らず知らずのうちに企業の求める完璧な女性というか‥例えば無表情の女の子を描いた時に、もっと笑顔にして欲しいとか、足広げるのは控えて下さいとか、そういうものがあったりして、知らず知らずのうちに自分の中の固定概念としても、「女の人ってこうあらなきゃいけないんだ」みたいな、見る側も見てて気持ち良いものでないといけないし‥そういう概念が自分の中で作り込まれていることに気付いたんですね。
でもやっぱりせっかくイラストを描くという活動をしているなら、そういう世間や企業が求める女性像とは違った新しい女の人の描き方が出来たらいいな、という想いからアート制作を始めました。
ーーそうですよね、先週itabaさんとお話した時に、クライアントワークでは世間から求められる女性像を描いてきたけど、自分が思う女性像はもっとリアルな、求められているものだけじゃないというのをお聞きして、めちゃくちゃいいコンセプトだなと思いました。
ありがとうございます!あの時間は後から思い出すとめちゃくちゃカウンセリングしてもらっていたなと思いました(笑)
ーーこちらこそありがとうございました!itabaさんは女性以外も描く時はあったのでしょうか?
そうですね、あまり無くてですね、と言うのも私の絵は大元をたどると学生時代のデザイン画があって、デザイン画で描いていた女性服の延長みたいな部分はあります。
まあたまに頂いたお仕事の中でカップルやコスメを描いたりはするんですけど、ベースとしては女の人ですね。
ーー学んできたバックグラウンドが生きているというか、そこが元になっているんですね。
そうですね、なんか気付いたらそうなっていたといいますか。
ーーitabaさんの作品は、ご本人とお会いしてから作品を見ると、見た目からもすごく”itabaさんっぽさ”を感じます。やはり自己投影とかされるのでしょうか?
(笑)
自己投影はしてないつもりなんですけど、やはり生物上同じ女性というものを描いているというところで、ポーズとか悩むと自分で鏡の前でやったりしています(笑)
なので知らず知らずに多少は似ていってる、むしろ私が絵に寄っていってるかもしれません(笑)
現在の作風を確立した経緯
ーーでは今のシンプルな線で描く作品スタイルはどういう風に確立されていったのでしょうか?
デザイン画から入ったところが大きかったような気がしています。デザイン画では服を目立たせるために人自体の線を細くすることが多いと思うんですけど。服は今でも素材によってタッチや画材を変えたりしています。
人の線と服の線が同じ線だと、何となく自分の中で違和感を感じますね。
ーーそうなんですね。イラスト自体は昔から描かれていたんでしょうか?
絵を描くのは昔から好きでした。小学生の頃は家の近くに美大の予備校があって、そこが子供向けにもクラスを開催していて、デッサンとか油絵を教えてもらったりもしました。
その頃油絵も結構好きだなあと思っていたので、ゆくゆくは作品にも使ってみたいなと思ってます。何十年ぶりだって感じですけど(笑)
ーー油絵の経験もあるんですね。今使われているのはアクリル絵具でしょうか?
そうですね。
ーーキャンバスにアクリル絵具で描くのと、デジタルでiPad等に描くことも多いと思うのですが、描き心地とか描き方とか、結構違いませんか?
元々ペンで描いていたので、はじめ展示用にアクリル絵具を筆で描いた時は結構違和感がありましたね。
でもペンで描いている線の雰囲気は大事にしたかったので、今は筆で描きながらわざと紙のザラザラ感が出るように、線をあえて不均一にしています。ペンっぽさを出したいなと思って描いてます。
仕上がりのイメージとしては、意外とそこまで離れないですね。ただキャンバスになることによってもっと強さが出せたらと思って描いてます。
ーーなるほど。あとはサイズ感もデジタルとアナログで結構変わりますもんね。itabaさんの作品は大きいものも多いので、その辺り苦労したのかと思いました。
そうですね、でも一回大きく描いたら大きく描くのが楽しくなりました(笑)
筆で描くと細かい部分が表現できるんですよね。
ーー小さいものを大きく描くって、結構難しくないですか?
ペンからペンだったら難しかったんですけど、ペンから筆になったので、意外と私は平気な感じでした。それぞれのツールで描きやすい線を描いていますね。
イラストレーターとしての活動について
ーーイラストレーターとしてのお仕事は、どういう会社さんからお話し頂くことが多いのでしょうか?
結構様々ですね‥コスメ系やアパレル系、雑貨とか、あと昔あったのは生理用品とか女性向けの商品ですね。コスメ系では 周年記念やテンポオープン記念とかそういうものもやらせてもらったりしています。
ーーそうなんですね、やはり女性向けの商品が多いんでしょうか?
そうですね、食品系もあったりはするんですけど、でも女性向けのものが多いと思います。
でも最近、元々私のフォロワーって女の人がめちゃめちゃ多かったんですけど、最近男の人も増えてきていて!
元々3%位しか男性の方いなくて(笑)でも最近10%位になったので私的には嬉しくて。
ーーそうなんですね!それはアーティストとしての活動を始めたからなんですかね?
多分そうな気がします。展示とかそういう活動をして、見た目的にも多少タッチが強くなった気がするので、女性っぽすぎなくなったのかなあと思いますね。
というのと、何となくですが、最近女の人のイラスト描く方が多いので、男の人含めて世間が女性イラストに対して耐性が出来ているというか、楽しんでくれる方が増えたのかなと感じます。
ーーなるほど、たしかにそれはありそうですね。女性イラストを描いている作家さんって意外と男性の方が多いですが、itabaさんは女性が描く女性という、そこがコンセプトにも繋がっていて、他の方とはまた違ってそこが良いなと思っております。
初個展とその感想
ーー22年3月に初めての個展をされたんでしたっけ?
あ、違うんです。去年の9月くらいに個展一回目をやっていて、でもその時はキャンバスとか絵具は使わずに元々描いていたイラストで展示しました。
そして3月の展示が初めてのキャンバス作品のものですね。
ーーそうなんですね。では正式にアーティストとして活動を始めたのは今年のものになるのでしょうか?
そうですね、去年の9月の頃ははまだ迷走していましたね、どこへ向かえばいいのか、みたいな‥
で、最近、3月の展示を目指し始めた時に、アートのそもそもの概念から勉強して、活動方針を考え始めた感じです。
ーーなるほど。3月の個展の感想をお聞きしたいです。モザイクをテーマにされていましたよね?
▼3月に実施した個展『Compliance?』の作品
はい、モザイクのテーマは私的にすごく気に入っていて。
モザイクをテーマにしたのは、大元を言うと、エヴァンゲリオンの庵野監督の実写映画「ラブ&ポップ」という作品があるんですけど、それをボーッと見ていて、男の人がカバンから何かを取り出すシーンがあるんですよ。そこで画面上に急にモザイクが出てきて、その瞬間すごい気になって、そのものを呼ぶ時もピー音が入っているんですよね。そこですごくその正体に興味がそそられて、スマホで調べていたんです。
で、そこまでした自分の行動が面白いなと思って。モザイクによってその作品がすごく印象的になったというか。
そしてそこから「隠される」ということってすごく気になるよなあと思って、着想を得た形です。
展示中もお客さんに「何が隠されているんですか?」と沢山聞かれましたが、絶対に答えませんでした(笑)
ーー捉え方は人それぞれ、アートの楽しみ方の醍醐味ですね。この個展を通してよりアート作品制作に力を入れていきたいと思われたのでしょうか?
そうですね、アクリル絵具って意外と私の線に合っているな、と思ったのと、他にも色々な表現をやっていきたいなと思いました。
ーーすごく良い転機になったのですね。
そうですね。これからもいくつか展示の予定があるのですが、その時はモザイクとはまた別のテーマでやっていこうかなと考えています。
新たな作品テーマ『ERROR』
ーー8/6.7にはtagboatという会社主催の若手アーティストの展示イベント、「インディペンデント東京」があります。itabaさんもこちらに出展されますが、そちらの作品についてお聞かせ下さい。
はい、インディペンデント東京含めてこれからの作品テーマとして『ERROR』というものを考えております。
『ERROR』というのは、ボーッと街とかを歩いている時に、すごい綺麗な人を見た時に、そこだけ解像度がぐっと上がるような‥キレイなものって周りに対して異常に立体的に見えるというか、脳がバグる感じあるじゃないですか。それです。
ーーめちゃくちゃ分かります。
私の描く女の子でも同じことを起こしたいなと思って、色々表現方法を考えて検証してたどり着きました。
また、「いい女」という言葉自体、今の御時世どうなんだろうと悩んだこともあるんですが、別に「いい女」という言葉自体悪いものじゃないよなあ、と思い、そこも表現していけたらと思っています。
そういうわけで『ERROR』、これからやっていきます。
▼itabamoeの『ERROR』シリーズ。背景が抽象的な表現になっている。
ーーなるほど。視覚的に何かが起こる、という意味ではモザイクも『ERROR』に近いものがあるのかもしれないなと思いました。
そうですね、描いてみて繋がる部分はあるなと感じました。
ーーモザイクも良いですが、モザイクは女性とモザイクという、テーマと女性がやや分断されていますが、『ERROR』はしっかりと女性そのものにテーマが落ちていて、すごく良いなと思いました。
ちなみに元々『ERROR』を作る前にインスピレーションを受けたのは冨永愛さんの写真です。浮き上がっている感と言いますか‥めちゃくちゃかっこいいなと思いました。
ーー今回作られた『ERROR』シリーズで苦労した点はあったのでしょうか?
苦労‥今回初めてスプレーを部分的に使ったんですが、キレイに自分のモノにするまでがちょっと大変でした。さりげなくなんですけど、一部質感を変えたいなと思って。
でもスプレーは完成して最後に使っていたので、失敗したらやり直しが効かないというプレッシャーの中で頑張りました(笑)
ーー成功して良かったです!(笑)今回のインディペンデント東京のためにおいくつ位作品を作られたのでしょうか?
なんだかんだ14作品作りました。インディペンデント東京の出展が初めてということもあって、最初はどのくらい作っていくべきか分からず、後から急いで増やしました(笑)
ーーすごい。作品を作るのにはどのくらい時間が掛かるのでしょうか?
描き始めたら1週間掛からないで描けます。ただ描き始めるまでに何を描くか考えるのには2ヶ月位掛かりますね。ひたすら考えて病み続ける期間というか‥
ーーテーマ考えるのってやっぱり大変ですよね‥
そうですね、降りてくるまでは考えて寝て、考えて寝て、考えて寝て、の繰り返しで‥自分の生産性にも不安になりながらやってます(笑)
ーーうーんなるほど。イラストとアートの違いで思うのは、イラストは求められている答えがあるのに対して、アートは自分で答えを作らないといけないから、大変だろうなあとすごく思います。
そうなんですよね、クライアントワークは使用目的とか、どういうものを描いて欲しいとかお題を頂くんですけど、アート制作はそういうものが無いまっさらな状態で、すごい戸惑いますね。
ただ一時期は本当に悩んでいましたが、今はすっかり晴れました。
毎回描くものが違うと、見る側は追い甲斐が無いなとなってしまうと思うので、裏切らずに新しいものを作っていくバランスを大切にしていきたいなと思っています。
作品制作のモチベーション
ーー作品制作のモチベーションはどんなところにあるのでしょうか?
描き始めてからは「いい線じゃん」とか自分の線に酔いながらやっていますね(笑)
逆に他の皆さんはどんなことモチベにしているんだろう‥
ーーアーティストの方は「これしかやりたい生き方が無いからやっている」という方もいましたね。素敵な考え方だなあと思いました。
かっこいい。でもたしかにそれはあるかもしれないです。
私もいくらお金持ちになっても描いているんだろうな。
ーー自分の「やりたい」で生きているということですね。かっこいい。
描けなくて辛いときもあるけど、でも描きたいと思ってしまう。そういうことなんでしょうね。
ーーこれから挑戦したいことを教えて下さい。
先程も少し話に出ましたが、油絵をやりたいなと思っています。
小さい頃の楽しかった油絵経験が元になって今絵具で描いているのもあって、今使っているのはアクリル絵具ですが、メディウムとかも使って油絵っぽくモリモリで描いています。
10月にやる個展で挑戦できたらなあと考えてはいますが‥時間が意外と無いですね‥
ーーアクリルと油絵両方あったら違いが楽しめてさらに良さそうですね!
itabamoeにとってのアートは『覚悟』
ーー最後にitabaさんにとってのアートとは、を教えて下さい。
本格的にアートを描き始めて思うのは、『覚悟』ですね。
商業的にイラストを描いている時は可愛かったりキレイだったら正義と思っていたんですけど、アートとして出すとなると、主張が無いとな、と思ったんです。
その主張っていうのも今までだと何となく感じ取ってね、というものだったんですが、改めてアートは人に投げるものだよなと考えた時に、『覚悟』だなと。
作ったものや活動全てが残っていくものですし、タトゥーになっていくわけですしね‥
ーー覚悟‥たしかに自分で答えを作ってそれを人に届ける、それはまさに覚悟ですね。アーティストってやっぱりかっこいいなと思いました!
ーー本日はお時間頂きありがとうございました!itabaさんの様々なことが知れてすごく貴重な時間になりました。イラストレーターやアーティストを志す方にとっても勉強になる点が多々あったように思います。
実際のインタビュー動画はこちらから
本インタビューはインスタライブにて実施致しました。
実際に話すアーティストをぜひ見てみてください。
最後に
以上、ファッションデザイナーとしてキャリアをスタートし、イラストレーターに転向、さらにアーティストとしての道も進み始めたitabamoeさんへのインタビューでした。
長年に渡るイラストレーターとしての活動で「いい女」という自身のスタイルを確立しており、さらにアートとして進化させているitabamoeさん。これからのさらなる活躍が楽しみで仕方ありません。
itabamoeさんの作品は、本通販サイトMONOLiTHでもお取り扱い中!
是非チェックしてみてください。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
それではまた!
MONOLiTH運営責任者
小野田 豪祐