【イラストレーター・辻野清和インタビュー】イラストレーターとして独立とアートへの挑戦
目次
2023.3.24.UPDATE
皆さんこんにちは。現代アート通販サイトMONOLiTH運営責任者のGOSUKEです。
今回のアーティストインタビューのお相手は、辻野清和(ツジノ キヨカズ)。
企業勤めの後、イラストレーターとして独立し、アート作品の制作にも活動の幅を広げた辻野さんは、どのような思いでイラストやアートを制作しているのでしょうか。
根掘り葉掘り質問し、赤裸々に語って頂きました。
アーティストプロフィール
辻野清和(ツジノ キヨカズ)
“シンプル”をテーマに人物を中心に描くイラストレーター。
10年以上服の販売員をしながら細々と絵を描いていたが、Instagramやアート展覧会Unknown Asiaでの受賞などをきっかけに2019年末に退職、フリーのイラストレーターになる。
New Balanceなどのアパレルコラボや芸能人のグッズ、百貨店の催事イラスト、クラフトビール、企業の広告、挿絵など幅広く活動。
アーティストインタビュー
イラストだけでなく、アート制作を始めた理由
ーー作品制作のコンセプトについて教えて下さい。
僕自身、まだアートを確立できていないという部分もあるので、まだそこまでしっかりとしたコンセプトは無いのが正直なところです。
ただあえて言うなら、”シンプルに作品を作りたい”というのが一番大きな想いとしてあります。
ーーなるほど。たしかに辻野さんの作品はシンプルな線と塗りだけで表現されていて、でもしっかり辻野さんらしさがあって、すごく良いなと思います。
ーーでは、イラストだけでなく、アートも始めた理由をお聞かせ頂きたいです。
そうですね、もちろんイラストも好きではあるんですが、やはり”自分が本当に良いと思うものを描く”というのは、イラストレーションでは少し難しいのかな、という部分があります。
自分の思う価値観で描けて、それである程度生計を立てられるのなら一番理想的な生き方なのかなと思っています。
なのでアートとして作品を作れる技術を持ちたいなと思い、アート制作を始めたのがきっかけです。
ーーイラストだとクライアントワークが中心になるので、自分の描きたいものというよりは、求められるものになる、というところでしょうか。
はい、そうですね。
ーーなるほど。以前他のイラストレーターの方とお話した時も同じお話しをされていて、アートとイラストの違いをすごく理解できました。
▼クライアントワークの一部
イラストを始めた理由は『もののけ姫』
ーーイラストを描き始めたきっかけを教えて下さい。
月並みですが、子どもの頃から絵を描くのが好きでしたね。で、自分の中では、一番衝撃的だったのが、『もののけ姫』だったんですよね。
ーーおお、もののけ姫。
その時中3の夏くらいだったと思うんですけど、観に行ってものすごい衝撃を受けて。なんでしょうね、ストーリーが良かったというよりも、職人の技術的な所にすごい感動して。
なんか、そこからずっと頭の中がもののけ姫だらけになって、多分インプットがすごかったんでしょうね。
そんな時にふと描いてみたいなと思って、雑誌の広告を見ながら模写していました。そして模写し続けている時に自分の中に感動があって、絵っていいなという感じで、アウトプットの快感を感じました。
それで夏休みの間はずっともののけ姫の絵ばかり描いていました。
これが多分絵の道に進む一番大きなきっかけでしたね。
現在のシンプルなタッチに辿り着いた経緯
ーーそうだったんですね。もののけ姫から今の辻野さんのタッチって結構離れているかなと思うんですが、どのように今のタッチに辿り着いたのか気になります。
うーん、どうでしょうね、でもある時からミッフィーの作者であるディック・ブルーナさんの作品がすごい好きで、いつかはそういうシンプルな絵を描きたいなという思いがあったというのはあります。
でもシンプルな絵って自分の中で難しいイメージがあったから嫌厭していたんですよ。
で、2017年位になって長場雄さんとか、その辺のシンプルなイラストが流行り出したって時に、やっぱり長場さんの絵僕も好きだなと思って、始めは真似していたんですよね。ずっと模写みたいな感じで。ほぼ丸パクリしてましたね(笑)
で、そんな風にやっているうちに、徐々に自分なりのシンプルを突き詰めていきたいなと思って、色々試していく中で今のタッチに辿り着いた感じです。
昔は背景画も描いていましたし、今とは全然違う作風でしたね。
ーーなるほど。イラスト系の学校にも通われていたんでしたっけ?
そうですね、デザイン専門学校に行ってイラストレーションを専攻して学んでいましたね。
イラストレーターとして独立するまで
ーーイラストレーターになる前は、ユニクロで働かれていたとお聞きしました。
そうです。専門学校を出てから、就職氷河期ということもあり、バイトしながら絵を描こうと思い、地元のユニクロでアルバイトしながら、絵を続けていました。
でも、当時はやる気はあると言いつつ、あまり活動はせず、グダグダ歳を重ねていました(笑)
そして結婚を機に、絵は完全に諦めた時もあったんですけど‥でも逆に結婚してから暇な時に絵を描くようになって、あとはSNSの恩恵も受けて、人に見せる機会が出来て、絵を描くことに身が入るようになったというところです。
ーーそうだったんですね、意外な経緯です!Instagramはフォロワーもすごい伸びてますもんね。
人物をモチーフに描く理由
ーー人物をモチーフに描かれている理由はなにかあるのでしょうか?
そうですね、それも長場さんの影響があるのかなと思います。長場さんも人物をモチーフに描いてて、ご本人も「一番身近なものをモチーフにしている」ということを仰られていて。
僕も同感で、まあ自分も人間ですし、一番身近なものと考えるとやはり人間で、人物を描いてしまうんですよね。人物が好きなんですかねえ‥
明確には言えないのですが、言うとしたら一番身近なのと、もしかしたらもののけ姫を模写している時から、人を描くということが一番感情が出てくるのもあって、その延長なのかなと思います。
ーーそうなんですね。日々Instagramで投稿されている作品のモチーフは、何を参考に描かれているのでしょうか?具体的なモデルがいるのでしょうか?
Pinterestとかで見つけたモデルさんですね。
僕は想像では全然描けないので、モデルを立てる必要があって‥
ただ毎回こだわっていたら時間が足りないので、Pinterestを参考にしています。
とにかく早く描いて、Instagram等で発信して仕事を取らないと、という思いで描いています(笑)
ーーなるほど、でも全てしっかり辻野ワールドで表現されていて、すごいなと思います。
イラストレーターとしての仕事を始めるまで
ーークライアントワークを受け始めたのはいつくらいからなのでしょうか?
3年位前ですかね。
当時ユニクロで社員をやっていたのですが、それを辞めるとほぼ同時くらいに初めて仕事を頂いて、それがきっかけですね。
その後は2019年の11月から個人事業主として独立し、フリーのイラストレーターとしての活動を始めました。
ーーどういう企業からお仕事をもらうことが多いのでしょうか?
本当にバラバラですね。はじめは知り合いのデザイナーさんを通して、西宮の阪急百貨店さんとかのお仕事をいくつか頂いていたんですけど、その後はSNSを通して、アパレルやお酒、BtoBの会社さん等、本当にバラバラですね。
本当に多種多様です。
ーーたしかに辻野さんのイラストって、シンプルだからどういう業種でも使いやすいですもんね。
▼アパレルやクラフトビール、IT等多種多様な業種とコラボしている。
イラスト制作とアート制作の違い
ーーイラストとアート、それぞれを作る時の意識の違いはどのあたりにあるのでしょうか?
イラストレーションはさっきもお話した通り、クライアントの意向に沿って、第三者が受け入れやすいものを作らないといけないというところがやはりありますね。
逆にアートはワガママで良いと思うので、自分が本当に良いと思えるものとか、そういうものを素直に出したいなと思っています。
でもなかなか僕はイラストレーターの癖なのか、客観的に見た時に良いなと思われる作品を作らないといけないと思ってしまって、ワガママ過ぎるのもどうかなという気持ちもあって‥
一応第三者視点でも考えながら描いています。
ーーアート制作は難しいですよね‥今までアートとして描いたものは「YUM!YUM!YUM!シリーズ」があると思うのですが、そちらについて教えて下さい。
▼MONOLiTHでも販売中の「YUM!YUM!YUM!シリーズ」
アートは本当に最近描き始めたばかりなので、一番しっかりしているのは去年描いたあれくらいかもしれないですね。
それ以外も一応「バナナシリーズ」というバナナを被っている人のシリーズをちょっと描いたりはしましたけど‥
まだまだ模索している段階ですね、まだ自分のスタイルを確立できていないというところで。正直今が一番苦しい。
ーーそうですよね‥「YUM!YUM!YUM!シリーズ」はやなせたかしさんからインスピレーションを受けたとお聞きしました。
そうですね、アンパンマンを見た時に思ったことを描きました。
満たされ過ぎるとありがたみを忘れてしまうみたいな、そういう所に重点をおいた作品ですね。
ーー飽食、フードロスみたいなところですね。ではバナナもそういうところがテーマなのでしょうか?
バナナも近いのですが少し違って、偶然バナナの皮が落ちているのを見つけたんですよね。
で、バナナの皮って本当に滑るのかなって。色々想像してしまって(笑)
道にバナナの皮が落ちていることってあんまり無くて、色々想像したらそれだけで楽しくなったんですよね。
だから「バナナの皮一枚で人はこんな楽しめるんだな」というところで、絵の中の登場人物にバナナの皮をぶつけていくという、そんな感じでその時は描いていた感じだと思います。
ーーなるほど、やはり関西出身だから笑いなんですね!
そうですね、ベタですが(笑)
ーーアート制作は本当に難しいですよね‥イラストはある程度規定演技だけど、アートは自分の中から溢れるものを表現するという‥
うーんそうですね、自分の気持ちって意外と分からないという。
ーー自分的にこの作品は気に入っているというものはあったりしますか?
実は自分の絵があんまり好きじゃなくて、だいたい気に入ってないんですよね。
気に入るものはあんまり無いんですけど、唯一、大阪のDig me outっていうアート団体があるんですけど、学生の頃から憧れていて、いつか入りたいなと思っていました。
で、こういう歳になって入ることが出来て、そこで頂いたお仕事がFM802っていう大阪の有名なラジオ番組のフリーペーパーの表紙を描くというもので、それだけはずっと気に入ってますね。2020年くらいですね。
思い入れがあったので、個人的に気に入ってますね。
ーー作品制作のモチベーションはなんでしょうか?
やはり良いものを作りたい、というところですね。
面倒くさいという気持ちもあるのですが、やっていると、ここ気に入らないなとか、もっと良くしたいとかっていう気持ちが溢れてくるので、延々その繰り返しで、次はもっとこうしてみようの連続かなと思います。より良くしたいという思いですね。
ーー1枚描くのはどのくらい掛かるのでしょうか?
ものによりますが、Instagramに上げているようなものはだいたい1時間とか、2時間掛からないくらいですね。
こだわったとしてもデジタルなので1日あれば十分描ききれると思います。
これから挑戦していきたいこと
ーーこれから挑戦していきたいことを教えて下さい。
一つはイラストレーターとして仕事をもっともっと増やしていきたいというところですね。
それとはまた別で、アートとしてもある程度成果を出せるようにしていきたいです。今年しっかり結果を出して、来年に繋げていければと考えています。
ーー自身の中でのアートのテーマを確立していきたいというところですね。
辻野清和にとってのアートとは
ーー辻野さんにとってアートとはどのようなものでしょうか?
うーん、難しいですね(笑)
でも正直、”趣味”かなと思います。変な言い方かもしれませんが。
例えば釣りにハマった人も、ただ釣ってるだけでも楽しいけど、どんどんこだわるじゃないですか。どうやったらもっと釣れるんだろうみたいな。
そんな感覚に近いかなと自分は思っています。
描いているうちに、「こうやったらもっと面白い絵が出来るんじゃないか」とか工夫していくうちにもっと良いものが出来ていくという。
そういう意味も含めて、変な言い方かもしれませんが、僕は趣味だと思ってます。
ーーなるほど、イラストは仕事、アートは趣味、みたいな感じなんでしょうか。
そうですね、でも正直イラストも趣味に近いです。
そういう意味では趣味を仕事にしていて、理想の仕事を出来ていると思います。
イラストレーターを仕事にして生きていくとは
ーーイラストレーターとして生きていくことを志している方も多いかと思うのですが、イラストレーターを仕事にするってどうでしょうか?
どうなんでしょう、でもイラストレーターを目指しているなら絶対やったほうが良いと僕は思います。
絶対楽しいですし、自分のペースで何もかも出来るので、そういうのが性に合っている人間だったら絶対向いているので、ダメ元でもいいからガンガン挑戦してイラストレーターになったら良いと思います。
ーー苦しい時も多いですか?
ありますかね‥でもなんか僕マインドが切り替わったのか、あんまり不安とか感じない人間になったみたいです。昔は感じたんですけど。
不思議となんか不安が無いんですよね、別に死なんかあ、みたいな感覚で(笑)
楽しくやれています。
だからむしろ、イラストより、アートのほうが苦しいですね。アートのほうが答えが見つからないから。
ーー現在、デジタルで絵を描く方も結構多い中、他のイラストレーターと比べた強みはどこにあるのでしょうか?
絵のタッチ部分じゃないのですが、自分は描くのが早いというところがあります。
だから基本的に納期に焦るということがありません。
あとは当たり前のことですが、連絡も細かく取ったり、絵では無い部分で信頼を勝ち得るように行動していますね。
あとはクライアントが使いやすいデータ形式で納品しているところも良いのかもしれないです。
あんまり絵のタッチ部分ではないですが、そういうところかと思っています。iPad一つで全て完結させています。
ーーなるほど。イラストレーターだとどこでも働けるので、家族と過ごせる時間が多いのも魅力ですね。
僕はずっと一緒ですね。一緒にいないときのほうが珍しい。
ーー本日はお時間頂きありがとうございました!辻野さんの様々なことが知れてすごく貴重な時間になりました。イラストレーターを志す方にとっても勉強になる点が多々あったように思います。
最後に
以上、イラストレーターとして独立し、さらにアーティストとしての活動にも挑戦をする辻野清和さんへのインタビューでした。
イラストを始めた経緯、イラストレーターとしての生き方、イラストとアートの違い等、勉強になることがたくさんありました。
辻野さんの作品は、本通販サイトMONOLiTHでもお取り扱い中!
是非チェックしてみてください。
また、アートってどうやって買うのが正解なの?という方にはこちらの記事。
アート購入の基礎知識をまとめてあります。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
それではまた!
MONOLiTH運営責任者
小野田 豪祐